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Rain ライン

エストニア映画 (2020)

評価は高いのだが、非常に分かりにくい映画。そこで、まず、この映画のサイト(https://rain.film/)に書いてある映画の紹介の文章をそのまま引用しよう。「12歳のアッツが住む 小さな海辺の町のアパート。昔気質の父と、愛の瀬戸際にある母の3人が暮らす昔馴染みの部屋に、数十歳年上の兄ラインが突然戻ってくる。アッツは、世代の異なる父と兄の根本的に異なる価値観の衝突を目の当たりにする。父が、立ち位置を失ったラインを自分の枠に押し込もうとすると、兄は、暗い過去を持つ謎の女性アレクサンダーに希望を掛ける。『ライン』は、兄弟愛と身勝手さ、思いやりと憎しみ、恋に落ちて別れるという心の物語で、それらすべてが人間であることの証となっている」。次に、映画製作の進行について詳細に書かれたサイト(https://www.sirp.ee/s1-artiklid/film/)によれば、映画の時代は1990年代とある。エストニアがロシアの支配下から正式に離脱・独立したのは1991年9月6日なので、独立後間もない時期となる。映画の主人公は2人、全体を統括するのは12歳のアッツ、そして、その目の前で①アッツの手本となり、②頑固な父に対抗して崩れていき、③最後はアッツに助けられるラインが2人目の主人公。上記のサイトで監督は、「ラインは、主人公アッツの手本で、すべての出来事の原動力です。そういう意味で、“ライン(Rain)” には、国際的な言語の持つ意味も含まれています。ラインは変化であり、救済者であり、破壊者です。“雨(rain)” の後、太陽が出るように。しかし、単に男の名前だと見た方がいいでしょう。それは、アッツの言葉のように単純で正直です」と語っている。このアッツの言葉とは、映画の最後の方で語られる、「それは、物事のどっち側を見るかで決まるんだ」であろう。この映画の字幕は、僅か209行しかない。しかも、ほとんどが非常に短い。映画によっては1500行を超えるものも多い中、異常に少ない。ということは、与えられる情報量が非常に少ないことを意味している。ラインが久し振りに帰郷して会った旧友の正体は不明、ラインが、ダンス会場で出会って好きになった女性の正体も不明、その女性とは父の誕生日パーティに呼ぶほどの仲になったのに、謎の電話1つで突然破局を迎えた理由も不明、そして、アッツにつきまとう薄気味悪い少女は、その存在そのものが謎。最後になるが、上記のサイトによれば、この映画の撮影は2017年9月10日から開始され、秋、冬のシーンの撮影後、2018年3月29日にはアッツ役のMarcus Borkmannの誕生日を迎えている。そして、2020年3月4日には、「俳優たちは2年ぶりにこの映画を見ました」との記述もある。だから、映画が公開された2020年9月の時に撮られたMarcus Borkmannは、もう別人のようになっている(右の写真)。なお、ラインの俳優は撮影時40歳、父親役は62歳、母親役は59歳。最初観た時は、両親ではなく祖父母かと思ってしまった。ラインは、18歳も年上なので兄というよりは父親に近い。

1990年代のエストニア北部の小都市に住む12歳のアッツと その老齢の父母が体験する様々な体験を、エピソードの連続という形で描いている。
【夏】
◾食事の際、父はアッツに無理矢理スプラットを食べさせようとし、母はそれを止めさせるのが恒例になっている
◾ある夜、何の予告もなく、アッツの18歳年上のラインがアパートに帰ってくる
◾アッツは、恒例の埠頭での水泳の際、親友の友達のトムがホモだと知ってしまう
◾ラインは、翌日、さっそく旧友のマルトに会いに行く
◾その日の夕食の時、ラインは初めて父と会うが、昔と同じで気が合わない
◾アッツは、ある夜、森の中から自分を見上げる少女の存在に気付く
◾アッツとトムは、海岸近くの林の中に2人だけのツリーハウスを作り始めるが、それに石をぶつけた少女がいた
◾母が働く倉庫で、ガラスを運んでいて大ケガを負った作業員を、母が手当てする
◾完成に近づいていたツリーハウスが、少女によって破壊され、怒ったトムは、少女の家のガラスを割る
◾アッツは、そのことをラインに打ち明け、2人は翌日ガラスの修理に行き、アッツはそこで初めて少女と出会う
【秋】
◾ラインが作っていた木の棺桶が完成する
◾ラインは、ふと入ったパブで開催されていたダンスパーティで、アレクサンドラという女性と出会い、惹かれる
◾その後、パーティの参加者に侮辱され、酔っ払ってアパートまで辿り着いたラインを、アッツが介抱する
◾翌朝の食事で、スプラットをめぐるやり取りが、アッツとラインの間でユーモラスに再現される
◾ラインは、アレクサンドラの経営する美容院に会いに行き、髭を剃ってもらう
◾髭なしラインになっても、父との確執は変わらない
◾ラインはアレクサンドラと親しくなる
【冬】
◾ツリーハウスを壊した変な少女が、アッツに悪ふざけをし、トムが介入しても、アッツがトムの好意に答えなかったので、2人の仲が裂ける
◾アッツはラインに会いたいのに、ラインはマルトに誕生日プレゼントを渡しに行っていない
◾母と、ケガの治った作業員とが恋仲になる
◾ラインとアレクサンドルが恋仲になる
◾クリスマスが近づき、父の誕生日パーティがあり、ラインはそこにアレクサンドラを連れて行く
◾その夜、アッツは、例の変わった少女が信号弾を上げていたので、そこで一緒に信号弾を上げ、初めてのキスをする
◾ラインがアレクサンドラのアパートにいた時、1本の電話がかかってきて、2人の仲は終わりを告げる
◾ラインは、何とかアレクサンドラの気を惹こうと、アパートの前でバンド演奏をするが、惨めな失敗に終わる
◾アッツと少女が雪の上で寝転んでいた時、偶然から、マルトの死体を発見する
◾アッツとトムが仲良しに戻る
◾アレクサンドラのことでイラついたラインが、父に激しく反抗し、その後、埠頭から飛び込んで自殺を図る
◾それを、心配して後を付けていったアッツがラインを救う
◾それが契機となり、父、ライン、アッツの3人の間で、お互いの存在を認めた新たな関係が生まれる

ライン役のMarcus Borkmannに関する情報は解説で書いたこと以外はゼロ。

あらすじ

映画は、海の中から始まる。12歳のアッツが、何かを探して海に潜っている。そして、海上に出ると、他にも数名の少年が泳いでいて、船から飛び込む少年も3人映る〔撮影開始が2017年9月10日なので、その直後のタリンの最高気温は一番高い日で20℃。水中シーンは屋内水槽だが、海で泳いだり、船から飛び込むには厳しい気温だ〕。最初に、同い年のトムがロープにつかまって埠頭に上がり、それにアッツが続く。埠頭に置いた自転車の所に行ったアッツは、バスタオルで体を拭く(1枚目の写真)。トムが、「見つけたか?」と訊くが、何を探していたのかは最後まで分からない。そのあと、海で遊んでいた子供たち全員が 自転車に乗って埠頭から出て行く〔埠頭だけは、首都タリンの90キロほど南西にあるHaapsaluという町がロケ地〕。アッツは自転車を漕ぎながら、体をそらして全身で風を浴びる(2枚目の写真)。彼らが町に着くと〔一家が住んでいる町のロケ地は、首都タリンの160キロほど東にあるSillamäelという海に面した工業都市〕、その一角に設けられたボクシング・クラブのリングでアッツの父が試合をしていて、勝って、順位を4位から2位に上げる。一方、アッツの母は、勤めている倉庫の事務室に行き、1人しかいないので、音楽をかじぇながら仕事をしている。こうして、オープニングクレジット兼用の登場人物の紹介が終わり、最後は、アッツ達の自転車がアパート群の横の道を海に向かって下って行くところで、タイトルが表示される(3枚目の写真)。4枚目のGoogle street viewの写真は、ロケ地のSillamäelの市街地の最東端にあるGeoloogiaという通りから見た海。3枚目の映像は、超望遠レンズで撮影もので、実際の撮影範囲はオレンジ色の点線で囲った部分。この場所まで近づいても3枚目のような映像は見ることができず、海も見えない。
  
  
  
  

その日の夕食が始まる。父は、いつもやっているように、スプラット〔塩漬けしたニシン科の小魚〕をアッツに食べさせようと、皿に1匹置く。すると、母が、「アッツは スプラット食べないわ」と言い、すぐに元に戻す(1枚目の写真、矢印)。すると、父は、「今度は、食べる」と言い、戻したスプラットをまたアッツの皿に置く。即座に、母がつまんで戻す。食事が終わったアッツは、自分の部屋に行くと、上半身裸になり、両手にダンベルを持って腕に筋肉をつけようとする(2枚目の写真)〔何のためなのかは分からない。父のボクシングとの関係は、映画の中では一度も出て来ない〕。アッツが窓の外を見ると、森には激しく雨が打ち付けている〔Geoloogia通りの東側は森〕。そして、その森の中から1人の少女が出て来るのが、小さな点のように見える。
  
  

その夜、アッツが眠っていると、ドアをノックする重い音で目が覚める(1枚目の写真)。次の画面では、殺風景な廊下に1人の中年男が立っている姿がシルエット状に映される(2枚目の写真)。アッツの年の離れた兄、ラインの帰還だ。1990年代の設定なので、アパートはソ連時代の建造。だから、個々の室内は別として、共同施設の廊下の造りは非常にお粗末。恐る恐るドアを開けた母は、それが音信不通だった息子と知り、「何年ぶりかしら」とも「よく来たわね」とも「大丈夫」とも言わず、最も意外な 「どこから来たの?」と場違いな質問をする。ラインは、何も言わずに中に入って行くと、以前の自分の部屋のドアを開ける。中には、母のミシンが2台、トルソーが1台。縫物が山ほど置いてあり、少なくとも、ラインが寝られるようにベッドの上を空ける(3枚目の写真)。その間も、会話は一切ない。ラインがベッドに腰を下ろすと、母が 「喧嘩でもしたの?」と訊くが、それに対しても無言を貫く。室内廊下の反対側のドアが開き、父が出て来るが、久し振りの息子を見ても、声をかけずにトイレ(?)に行く。母が部屋を出て行こうとすると、ラインはドアまで来て、ようやく 「心配するな」と声をかけ、すぐドアを閉める。
  
  
  

翌日、ラインがどうなったかは分からず、冒頭の港の場面のくり返し。父が、ボートに乗って停泊中の船体下部にペンキを塗っている。父の職業は最後まで不明なので、これが父の船で 自らメンテナンスをしているのか、ペンキ塗りすのものが仕事なのかも分からない。そこから2つ離れた 似たような船の先端から、4人の少年が一斉に海に飛び込む。その一瞬のシーンのあと、6人の少年が船のデッキに横になって日光浴をし、数名が泳いでいる(1枚目の写真、矢印はアッツ、その右がトム)。カメラの角度が変わり、アッツとトムの間のクローズアップとなる。最初、2人の手は離れていたが、トムがアッツの手を取って握る(2枚目の写真)。それに気付いたアッツは、不審そうにトムを見た後、手を振りほどくと、「ホモ」と言う。それでも、トムはもう一度握ろうとするが、アッツはその手を払い、上半身を起こす。そのあと、1人で自転車を漕ぐアッツが映るので、トムより一足早く帰ることにしたのだろう。
  
  

アパートに戻ったアッツは、ラインの棲み処となった母の裁縫室に入ってみる。そして、ヘッドホンを装着し、大事そうに置かれたプレイヤーとアンプに触ってみる(1枚目の写真)。最初にスイッチを入れたら、あまりに音量が大きかったため、急いでスイッチを切る。そして、音量を下げてから、もう一度スイッチを入れてみる。その素振りから、その曲が気に入ったとは思えない。場面は変わり、部屋にいなかったラインは、古いアメ車を大事に手入れしている男のガレージを訪れ、「よお」と声をかける(2枚目の写真)。この男は、ラインの昔の友達なのだが、どんな人物なのか、最後まで全く分からない。男は、ラインを見ると、「誰かと思えば」と言い、久方ぶりの再会に顔が綻ぶ。2人は近くのカフェに行き、短い会話を交わす。男:「どのくらい、いるつもりだ?」。ライン:「分らん。そのうち分かる」。「俺も、じきおさらばする」。「どこへ?」。「カリフォルニア」。「カリフォルニアのどこ?」。「そのうち分かる」。
  
  

夕食の場。既に、父母とアッツが食べているところに、ラインがやって来て、何も言わずに座り、食べ始める(1枚目の写真)。その姿を批判的に見ていた父が、しばらくして、「やあ〔Tere〕」と短く声をかける〔ということは、これが最初の声かけ?〕。ラインは、「やあ、やあ」と2倍にして返しただけ。父:「話したらどうだ」。ライン:「何を?」。「何があった?」。「何も」。「どこから来た?」。返事はない。「これから どうする?」。「決めてない」。「男なら、どうするかくらい 決めておかんとな」(2枚目の写真)。この、アッツを見ていった一般的フレーズにカチンときたラインは、食べるのやめ、母に向かって 「ありがとう」と言うと、さっさと部屋を出て行く。兄が向かった先は、アパートの地下室。そこには、不要となったものが所狭しと置いてある。その隅に置いてあるドラムをラインは思い切り叩く〔問題は、昨夜兄が戻って来た時、これだけのドラムを地下室に入れてから、部屋に上がって来たとはとても思えないこと。ということは、ラインがアパートを去ってから ずっとここに置きっ放しになっていたことになる〕。ラインは、ひとしきり叩き終えると、タバコを一服吸う(3枚目の写真)。
  
  
  

夜も暗くなり、アッツは窓からじっと月を眺めていて、ふと下を見ると(1枚目の写真)、森の中にポツンと小さく見える顔が、じっとアッツの方を見上げている(2枚目の写真、矢印)。これだけしか書くことはないのだが、この少女が、一番謎の多い存在。彼女は、そもそもどんな存在なのか? 映画の中で一切説明がない。それに、なぜ彼女はアッツを見ているのか? それも分からない。ただ、昨夜、森の中にチラと見えた時は、特にアッツを見てはいなかった。それに、その後の展開から見て、アッツにとってこれが初対面であることは確実。
  
  

翌朝、アッツはトムのアパートを訪れる(1枚目の写真)〔廊下の内装は、アッツのアパートと全く同じソ連式〕。チャイムの音でドアを開けたのは、トムの姉(2枚目の写真)〔あとで、顔の映らない半裸の女性が出て来るが、左手のタトゥーで彼女だと分かる〕。アッツは、最初、彼女の目を見て、「トムいる?」と訊くが、そのあと、目線はおっぱいに移る(3枚目の写真)。
  
  
  

アッツとトムは、かなり荒れた海に行き、流されて来た板を拾い集める(1枚目の写真)〔背後に見えているのは、Sillamäel火力発電所の巨大煙突、映像では近くに見えるが、超望遠レンズなので、実際は1.7キロ離れている〕。2人は、海に突き出た岩の突堤からほど近い林の中の大木に ツリーハウスを作ろうとして板を運んでいる(2枚目の写真)。ツリーハウスの下まで来て、板を投げ出すと、トムは簡単な木の梯子を登って釘を打ち始める。アッツは、「縄ばしごが要るな。その方が “らしい” だろ?」と言い(3枚目の写真)、トムにからかわれる。アッツは話題を変え、「ラインは地下室にいろんなものを持ってる」と話す。「だけど、酔っ払いじゃないか? 仕事せずに、パブに行って、ドラムを叩いてる」。アッツは、心を傷付けられる。それに呼応したかのように、ツリーハウスに向かって石が投げ付けられる。石を投げたのは、夜、森の中からアッツを見上げていた少女(4枚目の写真)〔姿を隠しているように見えるが、数日後、トムが復讐に行くことから、この時、トムは彼女の顔を見たとしか考えられない〕。トムがハウスのてっぺんまで登ってみると、丸い石が1個載っていた。
  
  
  
  

その夜、アッツが地下室に降りて行き、金網でできたドアを開けて中に入ると、廃棄されたソファにラインが横になって寝ている(1枚目の写真)。アッツはラインが眠っていることを確かめると、床に落ちていた女性のヌード雑誌を取り上げて見てみる(2枚目の写真)。
  
  

翌朝、ラインは旧友のアメ車に乗せられ、彼が運転席と助手席の間のセンターコンソールに特別にセットしたレコードプレイヤーにかけたSPレコードを聴かされる〔男は運転できないので、車は動かない〕。ラインがタバコを吸おうとすると、“何と不謹慎な” という顔をされたので、慌てて止める。ラインは、「で、いつ行くんだ?」。「もう少し、お金がないと」〔ラインが、この古めかしい曲を気に入ったとは、とても思えない〕。そのあと、アッツが、地下室を覗きに行くと(1枚目の写真)、ラインが板に巻き尺を載せて何かを作っている。アッツに覗かれていることに気付いたラインは、ドアをパッと開け、「何の用だ?」と訊く。アッツは 「縄ばしごある?」と訊く。「ない」。「どうやって作るか知ってる?」。ラインは首を横に振る。ラインの様子が変なので、アッツは 「どうかしたの?」と訊く。「何が言いたい? そのシャツ、どこで手に入れた?」。「クローゼット」(2枚目の写真)。「それは俺のだ」。「返して欲しいの?」。「その意味知ってるか?」〔Tシャツには赤い文字が描いてある〕と言うと、吸血鬼の真似をし、『血をよこせ』だ」と脅す。アッツは、「どうかしてる」と言って出て行く。
  
  

その日、母が働く倉庫では、2人の従業員が大きなガラス板を運び入れようとしていた(1枚目の写真)。母は、いつも通り、音楽をかけながら事務室で作業している。すると、ものが壊れるような音がしたので、ラジオを止め、様子を見に行く。すると、床にはガラスの破片が散らばり、その向こうには、ウウノという作業員が頭から血を流したまま立っていた。母はさっそくウウノを事務室に連れて行き、包帯の代わりになるものを頭に巻き付けて止血する(2枚目の写真)。母は如何にも楽しそうだ〔ウウノの方が7つ年下〕
  
  

アッツとトムが、板を拾っていた岩の上に座っている。アッツは、「女性の目をじっと見れば、それが意中の人だと分かるんだって。いつもと違った感じがするそうだよ」と話す。トムは、「そんなの、でたらめだ。もしそうなら、別れる人なんかいないだろ」と反論する。「きっと、感じがなくなっちゃうんだ。ある朝起きると、もう何も感じないとか」。「経験あるんか?」。この問い掛けに、アッツはしばらく黙っていて、急におならをする。トムは、「ひどいな、このおなら野郎!」と怒り、アッツは笑う(1枚目の写真)。「ひどい臭いだ」。そのあと、いつものように板を持ってツリーハウスに向かうと、せっかく作ってきたハウスが、バラバラに壊されている(2枚目の写真)。頭に来たトムは、アッツを連れて森を抜け1軒の家に辿り着く。そして、ポケットから、この前 投げられた石を取り出すと、アッツに差し出し、「やれよ」と、ガラスを割るよう指示するが(3枚目の写真)、アッツは首を横に振り、「君が投げろ」と言う。トムは家に向かって石を投げ、ガラスを1枚割る。ここで疑問。トムが真っ直ぐこの家に向かったということは、前に書いたように、トムが ①石を投げた女の子を見ていて、しかも、②それが誰だかしっている必要がある。なぜ、彼は知っていて、アッツは知らないのだろう?
  
  
  

その頃、ラインは、地下室でハンダゴテを使って何かをしていた。すると、そこに雨でずぶ濡れになったアッツが入って来てソファに座る。ラインは、親切にも縄ばしごを作ってやっていたので、それをアッツの腕の上に置く。「それでいいか?」。しかし、アッツは何も言わずにじっと縄ばしごを見ているだけ(1枚目の写真、矢印)。そして、縄ばしごを脇に置き、「もう 要らなくなった」と言う。「なんで?」。「僕らのツリーハウスが壊されちゃった」。その言葉に、ラインは作業を止め、アッツを振り返る(2枚目の写真)。「話せよ」。「トムが窓を壊した」。「誰の?」。「女の子の」(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、ラインとアッツは、ガラスを持って少女の家まで歩く(1枚目の写真)。家に着くと、ラインが窓に新しいガラスをはめ、何と、釘を打って固定する。最初、その作業を見ていたアッツは、異様な感じの部屋の中を見て驚く(2枚目の写真)。部屋の中に、ビニール張りのテントが置いてあったのだ。そして、そこに現れたのは、ネイルペイントをした素足。カメラは次第に上へと向かい、コスプレ風の斬新な体操着、そして、両目にキャップを付けた異様な姿の少女の全身像が映る(3枚目の写真)。アッツは、「いつもと違った感じ」に襲われて、ただただじっと見とれる。
  
  
  

この直後、時間の経過は感じさせないが、母が、頭の怪我がほとんど治ったウウノと親し気に会う場面が30秒ほど流れ、地下室にあるビン詰め食品貯蔵棚に新たなビンを持ってきた母のシーンへと続く(1枚目の写真)。母がふと振り向くと、先日ラインが巻き尺で測り、そのあとハンダゴテで何かしていた物が、完成して横たわっている。母が照明を点けると、それは棺桶だった〔エストニアの棺桶は上辺が斜めになっている〕。母は、近くに寄って、そこにハンダゴテで焼き付けられた模様を見てみる(2枚目の写真)〔この棺は、あとで “ラインの旧友” に使われるのが、なぜ、ラインが この段階で棺を作らなければならなかったについての説明は一切ない〕〔この場面は、夏から秋への時間的変化の時期でもある。なぜかと言えば、その直前のツリーハウスの場面では、木はまだ緑だった。それが、この次のシーンでは紅葉している。それに加え、①傷の回復、②棺の完成が、それを示唆しているものと解釈できる〕。
  
  

場面はすぐに変わり、ラインがパブでビールを飲んでいる。パブの奥では、きちんとした服装をした20人ほどの男女が踊っている。ラインは何となくその雰囲気に引き込まれ、場違いな服装のまま、その輪の中に入って踊り始める。中でも一人の女性が、ラインの踊りに目を留め、ペアになって踊り始める(1枚目の写真)。1曲終わったところで、ラインがメンバーの一員でないことに気付いた女性は去って行く。疎外されたように感じたラインがパブの外に出てタバコを吸っていると、そこに派手な格好をしたグループの男が1人やって来て、タバコを1本所望した上で、「今すぐ、立ち去れ」と生意気なことを言い出す。「なんで?」。「ここは、お前が来る場所じゃない」。そんな侮辱的な言葉に従うラインではない。「まだ、ビールが残ってる」と言い、戻ろうとすると、男はいきなりラインの胸に一発。強面のくせに体力の弱いラインはフラっとする(2枚目の写真)。怒ったラインは男に飛びかかるが、その直後のシーンで、ラインが海辺を、ビール瓶を手にフラついているのを見ると、瓶を持っている以上勝ったのかもしれないし、お情けにビール瓶だけ与えられたのかもしれない〔この映画は、常に、説明がなされない〕
  
  

アッツは、夜、寝ていて、犬の吠え声で目が覚め、窓から見てみる(1枚目の写真)。次の場面では、アッツが、アパートの玄関前に座り込んでいるラインを心配して見に行き、肩に手を当てて、「ライン、起きて」と声をかける(2枚目の写真)。アッツの服装、敷石の上の落ち葉、遠くの照明に浮かぶ樹木の色からみて、2つ前の節に書いたように、季節は夏から秋へと確実に移っている。アッツはラインに肩を貸し、地下室への階段をやっとの思いで下り最後から2段面の階段に座り込む。すると、ラインは優しくしてくれるアッツにしがみついて泣き出す。アッツは、兄の肩に手を置くと、慰めるように顔を埋める(3枚目の写真)。その後、何とか兄をソファに寝かせると、上から敷布を掛ける(4枚目の写真)。兄は、そのまま眠ってしまうが、アッツの腕を握ったままなので、アッツは全力で腕を引き抜く。
  
  
  
  

翌朝も、2人の仲の良さは続く。一足早く起きたアッツは、チーズをのせたパン、ゆで卵、スプラット、炒めたキビの種(?)、コーヒーを用意して 兄が起きて来るのを待っている(1枚目の写真)。ラインは、コーヒーをすすり、キビを一口食べると、ペッパーミルを取りに席を外す。その隙に、アッツは、いつも父にされたように、スプラットを1匹つまんで(2枚目の写真)、兄の皿に置き、知らぬ存ぜずの顔をして食べるのに専念する。戻って来てスプラットに気付いた兄は、テーブルに両肘をついて弟を見ると、ペッパーミルを回しながら、窓を見て、驚いたような顔になる(3枚目の写真)。その顔に気付いて、アッツが振り向いた瞬間、兄はスプラットを元に戻す。驚くような物が何もなかったので顔を戻したアッツは、スプラットに気付き、兄を見てニヤリとする(4枚目の写真)。兄は、しばらく食べてから、「夏、お祖父ちゃんの家に行ったことがあったな。覚えてるか?」と訊く。アッツが頷くので、アッツが兄と別れていた年月は10年を超えないことが分かる。「暑い夏だった。キャンプファイアでジャガイモを焼ことしたら、草も乾燥してたから、火が燃え移った。慌てて消そうとしたが、うまくいかず、髪の毛や眉毛が焦げてしまった。そしたら、青天なのに、雨が降り出した」。
  
  
  
  

兄がキャンプファイアの話を始めると、すぐに場面は、アパートから美容院に変わる。そこにいた、女性店主は、ラインがパブで踊った相手だった(1枚目の写真)。客と従業員が全員いなくなった後、それは、「青天なのに、雨が降り出した」を象徴的に現わしたものかもしれないが、客用のイスに座ってラインをじっと見ている女性に、ラインが、パブで拾った女性の忘れ物を渡すと、女性は、隣のイスを回転させ、「座って」と言う(2枚目の写真)。
  
  

その結果がどうなったかは、その次の、夕食のシーンで分かる。夕食のテーブルに座った4人。ラインの髭面はきれいさっぱりなくなり、年も5つほど若く見える。寡黙な食事。父が、「美味いか?」とラインに訊くと、ラインは、母を向いて 「とても」と答える。そして、いつも通り、父が皿に置いたスプラットをフォークに刺してじっくり見ると(1枚目の写真、矢印)、それを元に戻す。それを見た父は、ラインを睨むと食べるのを止め、席を立ち、イスを収め(2枚目の写真)、「ありがとう」と妻に行って立ち去る。父とラインの溝は、夏から秋に変わっても埋まっていない。恐らく、その日か、数日後、ラインは、美容院の女性と、Sillamäelのダム湖〔海の町なのにダム湖(ülemine paisjärv)がある〕沿いの散歩道を歩く。ラインの服はいつも同じなのに、女性は、レオパードのロングコートを着ている。重要な会話内容ではないので、楽しそうな雰囲気だけ紹介する(3枚目の写真)
  
  
  

そして、季節は一気に冬。例の可愛げのない少女が、アッツとトムの周りを睨むように歩く(1枚目の写真)。すると、少女は、突然アッツに飛びかかり、そのまま雪面に押し倒して顔に雪をかける(2枚目の写真)。見かねたトムが、今度は、少女を雪面に押し倒す。アッツは、やっとのことで起き上がる(3枚目の写真)。トムは、そのアッツに向かって、「こいつを殴れ!」と言うが、アッツがためらっているうちに、少女の左手が、トムの顔面を襲い、顔を雪だらけにする。トムは 何もしなかったアッツに失望する。だから、少女が逃げ出した後、アッツが肩に手を置いて慰めようとするが、その手を払いのけて立ち去る。
  
  
  

夜、アッツが、ラインの部屋のベッドに横になり、ヘッドホンで音楽を聴いていると、ドアが開き、母が、「自分の部屋に行きなさい」という。アッツは、「ラインを待ってる」と答える(1枚目の写真)。「いつ戻るか、誰にも分からないのよ。もう行きなさい」。アッツは、体を起こし、ヘッドホンを外す。その頃、ラインは、昔の友達と一緒に、動かないアメ車のところでビールを飲んでいた。「これ、走るのか?」。「さあな、やったことがない。免許持ってないからな。ジュークボックスみたいなもんだ」。車の中に入ったラインは、SPレコードをプレゼントとして渡し、「誕生日おめでとう」と言う(2枚目の写真、矢印)。2人は、旧友として純粋に仲がいいが、なぜ、ラインにこのような友人がいるのかはさっぱり分からない。
  
  

別の日の夜。母は倉庫の事務室の窓に、クリスマス・イルミを付けている。そこに、頭の傷を治してもらった従業員が入って来る。2人は誰もいない倉庫に移動し、踊り始める。次に、雪の降る中での父のボクシングが映り、3つ目は、美容院の女性を助手席に乗せて雪の砂浜を疾走する ラインが運転する友人のアメ車。最後は、ラインの部屋でヘッドホンを付けて音楽を聴くアッツ。最初に戻り、母は、ダンスの相手とキスし(1枚目の写真)、停車した車の中ではラインと女性がキスする(2枚目の写真)。父のボクシングの順位は10位に落ちる。最後に、アッツは、プレゼントのお菓子を持ってトムのアパートを訪れる(3枚目の写真、目線は顔ではなく胸)。それを見たトムの姉は、着ていたシャツをめくり上げて乳房を見せる(4枚目の写真、左手のタトゥー)。
  
  
  
  

自宅でのクリスマス時期の誕生日会〔家族以外に少なくとも倍の客がいる〕に、ラインが美容院の女性を連れて来る。出てきた “見違えるほど変身した” 母に、女性を紹介し(1枚目の写真)、「アレクサンドラ」と紹介する。2人は父に挨拶に行き、アレクサンドラは、「誕生日おめでとう」と言い、「ラインとアレクサンドラから」と彫ったライターをプレゼントする。そして、全員が父のグラスにカチリと合わせて誕生日を祝う(2枚目の写真)。父は、ごく旧式のテープレコーダーで音楽をかけ、アレクサンドラを誘って踊り始める。一方、母の寂し気な様子に、キッキンまで着いていったラインは、「大丈夫?」と心配して訊く〔母は、目下浮気中〕。アッツは、初めて見る優しそうな父と、兄の “まさかの恋人” をびっくりして見ている(3枚目の写真)。
  
  
  

知らない大人達と一緒にいることがつまらなくなったアッツは、自分の部屋に戻って窓を見る(1枚目の写真)。すると、赤く光るものが空に舞い上がって行く。アッツが、興味を持って外に出て行くと、そこには例の少女がいた。そして、アッツの雪を踏む音に気付いた少女は、振り向いて、アッツに来いと手招きする。しかし、アッツがそれ以上近づかないのを悟ると、その場に座り込み、両手で思いきり叩き、光が舞い上がる(2枚目の写真、矢印の方向に上がって行く)。アッツがそれを目で追っていると、いつの間にか近くに来た少女が、1本の筒を差し出す。アッツは、雪の上に跪くと、もらった筒を振りかざし、堅い台に向かって振り下ろす。すると、眩い閃光とともに(3枚目の写真)、赤い信号弾が打ち上がる〔これは、いったい何なのだろう? 一種の信号弾?〕。2人は、赤い光の下で向き合い、少女の方からアッツにキスする(4枚目の写真)。
  
  
  
  

恐らくはアレクサンドラのアパートの部屋。ラインとアレクサンドラがキスを始めると、突然電話が鳴り出す。映画は、アレクサンドラの言葉しか映さない。①「もしもし」、②「いつ?」、③「分かった」。これで、2人の関係は終わるのだが、理由は全く不明〔彼女には旦那がいて、旅行か出張から帰ってくるのか?〕。夜になり、旧友のアメ車を定位置に停めたラインが、鍵を返そうと旧友を探すが、どこにもいない。近くのパブに行き、「マルト見たか?」と訊くので、ようやく旧友の名前が分かる。知らないというので、車の鍵を預け帰るが、その横のテーブルでは、父が8人で賭けトランプをしていた。それからしばらくしてアパートに戻った父は、居間のソファに横になって本を読んでいたアッツの前のテーブルに、小分けされた菓子を30-40個ほど鞄から投げ落とすと(1枚目の写真)、「等分にしろ」と言う。「ラインにも?」。父がそう答えたかは分からない。一方、父は、キッチンで会った母に、お金を渡す。母は、睨むようなきつい目で、「このお金、どこから来たの」と訊く〔賭けトランプで勝った?〕。父は答える代わりに、「何が言いたい?」と穏やかに訊き、それを、等分にする前に食べ始めているアッツが見ている(2枚目の写真)。夫婦の間には、厚い不信の壁がある。
  
  

翌朝、チラと覗いた兄の部屋にバッグが置いてあったので、アッツは大喜びで地下室まで駆け下りる。兄は、予想通り地下室にいて、木で何かの台のようなものを作っていた(1枚目の写真)。「何なの?」。「当ててみろ」。「テーブル?」。「違うが近い」。「どのくらい、ここにいるの?」。「あと数日」。「アレクサンドラも一緒?」。兄は首を横に振る。「なぜ?」。兄は、何も言わない。その後、2人は、大きな荷物を持って雪の街路を歩く(2枚目の写真)。ロケ地は、アッツのアパートの西約2キロの、より古いアパート群の建っている地区(3枚目の写真)で、ここでも、超望遠レンズが使われている。2人は、アレクサンドラのアパートの部屋の窓の真下まで来ると、ドラムを組み立て、ラインが演奏を始める。それを聴いたアッツは “いいね” サインを出す(4枚目の写真)。しかし、演奏の途中でドラムを叩くスピードがにぶり、やがて止まる。それは、部屋の小さなバルコニー付きの窓が開き、髭面の男が現われたからだ〔やはり、夫が戻って来た?〕
  
  
  
  

次の場面では、アッツが手袋ですくった雪を食べ(1枚目の写真)、より俯瞰的な撮影では、アッツと少女が並んで雪の上に仰向けに寝て、2人は仲良く手をつないでいる(2枚目の写真)。少女が、空を見ていた顔を横にし、アッツを見てほほ笑む。アッツも少女を見てほほ笑む。しかし、何か変だなと思い、首を少し上げると、雪の地平線の上にポツンとオレンジ色の物が見える。2人は何だろうと、そちらの方に歩いていくと、そこには、雪に埋もれた死体が横たわっていた(3枚目の写真)。顔から、それがラインの旧友だったマルトだと分かる。ラインが車を返しに来た時には、既に死んでいたのだろう。しかし、なぜ?? 何も説明はない。その後、墓地での埋葬シーンがあるが、そこで使われるのは、かつてラインが夏に作り始め、秋には完成した棺桶だった〔そんなことは、あり得ない??〕
  
  
  

埋葬の時、ラインの顔には髭が伸び始めていた。ということは、演奏が失望に変わってから、ラインの死まで1ヶ月くらい経過していたことになる。次にラインが画面に現れた時、髭は、最初と同じくらいの長さになっていた。だから、もう冬は終わりに近づいている。ラインは、久しぶりに、美容院を訪れ、アレクサンドラに会う。しかし、以前のように髭は剃ってくれたが、愛については、「ごめんなさい」と謝り、涙を流すだけで、元に戻すことはできなかった。ここから、アッツの独白が始まる。「ルハ通り18番のアパートのトムから手紙が来た。こう書いてあった。『君が人の顔をじっと見て、こうだと判断したら、その意見は一生続くのかい?』」。画面では、アッツがアパートのドアを開けると、廊下にはトムがいて、持って来たサンドイッチを差し出す(1枚目の写真)。「ねえ、トム君、それは、物事のどっち側を見るかで決まるんだ。片面だけしか見なければ、意見は一生続くだろう。でも、もう片面から見れば、意見はたった5日と…4時間と…38分と…5秒で変わる」。そして、アッツは、トムからサンドイッチを受け取り、口に入れる(2枚目の写真)。それを見て、トムが微笑む。2人の仲は、これで元通りになった〔片面は ホモ。もう片面は かけがえのない友達〕。この独白のあとで、父と母が仲直りをする場面も入る。2人も、お互いを見直したのであろう。
  
  

しかし、ラインと父の間は、そうはならなかった。アレクサンドラのことで悲観したラインは父と対峙し、「オン・ランウンド行こう」と、ボクシングで戦おうと無理強いし、父が宥めても一向に態度を改めず(1枚目の写真)、遂には取っ組み合いになる。それを見て、アッツは体をすくませる(2枚目の写真)。ラインは父を床にねじ伏せ、父に向かって、うっ憤を吐き出すように叫ぶ。そして、アッツと目が合うと、アパートを出て行く。
  
  

ラインは、雪に埋もれたマルトのアメ車の前でしばらく考えた後、Sillamäe港のコンテナ埠頭の端まで行き、海に飛び込んで自殺を図る(1枚目の写真)〔ひょっとして、ラインは世の中に失望して帰宅し、棺桶は自分のために作ったのかも〕。ラインの体が水中に沈んでいくと、1分も経たないうちにもう1つの体が水中に飛び込み、力強く泳ぎ始める。アッツだ(2枚目の写真)〔アッツは、兄の様子を心配し、ずっと後を付けて来た〕。アッツが助けに来たことを知ったラインは、アッツを死なせるわけにはいかないので〔アッツの小さな体では、服を着込んだラインを引き上げることはできない〕、アッツを助けて一緒に埠頭に這い上がる。そして、バカな自分に、もう一度人生を与えてくれた恩人として、アッツを抱き締める(3枚目の写真)〔さぞや寒い撮影〕
  
  
  

アパートに戻ると、父は、食堂のテーブルに座ってタバコを吸っていた。ラインは、黙ってその横に座ると、タバコを口に咥えるが、海に落ちたので、いつも使うマッチでは火が点かない。それを見た父がライターの火を差し出す。ラインは、何も言わずに、顔をライターに近づけてタバコに火を点ける。そのすぐあと、アッツが父の斜め横に座ると、タバコを加え、父のライターを取って自分で火を点ける(1枚目の写真)。こうして3人が仲良くタバコを吸う(2枚目の写真)。映画は、次第にクローズアップされていくアッツの笑顔(3枚目の写真)で終わる。3人の仲直りをタバコで代弁させるやり方は、映画の舞台が1990年代としても、2020年に公開された映画としては相応しくないのではないか? ちょうどこれを書いている朝のニュースで、ニュージーランドで14歳以下のタバコ購入が生涯禁止になったと報じられた直後だからだ。喫煙者は非喫煙者の4倍の確率で肺癌になることが確実な中、少年の喫煙に無神経なエストニアに違和感を覚える。
  
  
  

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